ユニオン・ルネッサンス

2009年9月28日(月曜日)

地方自治の真の確立は、「信頼」と「持続」から?財団法人地方自治総合研究所

1999年から行われてきた「平成の合併」。しかし合併が進められた結果、「自治」の存在があやふやになってしまった。その原因と解決のカギについて、日本でも数少ない地方自治の専門研究機関である地方自治総合研究所の佐野さんにお話を伺った。(聞き手:仕事と暮らしの研究所 代表 鹿野和彦)

常務理事・事務局長 佐野幸次さん財団法人地方自治総合研究所常務理事・事務局長 佐野 幸次さん
資料室大学の図書館と比べても遜色のない、充実した資料室。30年をかけて完成されたコンメンタール(本文参照)も保管されている。

?まず地方自治総合研究所の成り立ちを教えてください

もともと自治労には地方自治研究活動(自治研)という政策・研究活動がありましたが、それとは別に「地方自治」というテーマを調査研究する常設的な研究機関が必要だということで当自治総研が設立されたのが、1974年の3月、今から35年前です。労働組合が研究組織を創りその成果を社会に還元することは、自治労の「社会的使命」でもあった、と先輩から聞かされました。年間活動してきましたが、さらに市民的視点に立って、より幅広い研究活動を行うべきだとして、1994年に財団法人化することになりました。

?労働組合から生まれたシンクタンクというのは、とても珍しいですね。他の研究機関とはどんな違いがあるのでしょうか?

労働組合が創った組織という点では、連合系の他のシンクタンクとの違いが大きくあるとは思っていません。しかし強いて挙げれば、一つは大学と比しても遜色のない資料室を持っていることです。研究所には「地方自治に関する本格的な資料センター」との役割があり、地方自治に関する一次資料をかなり収蔵しています。二つめは、逐条研究「地方自治法」、いわゆる自治法コンメンタールというものを完成させたことです。地方自治法のコンメンタールは総務省が独占的に発刊する場合が多いのですが、当該官庁の「解釈」とは独立したコンメンタールが必要だと判断し、創設当初から進めてきた事業です。明治期の「市制・町村制」から戦後に「地方自治法」ができた経緯を丹念にトレースしました。三つめは、年に一度、「地方自治」や「地方財政」などをテーマとして市民や研究者・自治体関係者等を対象としてセミナーを開催していることです。これは今年で24回目になります。最後は、地方自治研究者の養成機関として大学等から評価されていることです。大学には政治学や行政学に関する講座はあっても、地方自治や分権については、ようやく講座が定着してきた段階です。自治総研の研究員を経て大学に移った研究者は相当多くなりました。この分野の専門家がいなかったため、自治総研が評価されているのでしょう。

?日本で有数の地方自治の専門研究機関として、どのような活動をされましたか?

進行中の研究テーマを行うプロジェクトとしては「憲法と地方自治」「地域と条例」など15、研究会は年間100回程度開きます。かつては受託事業もありましたが、思いもかけない調査ができる一方で、テーマも絞られ、財政的な制約も厳しいため、今は自主的な研究がすべてです。その他、国際交流を目的としたシンポジウムも開催しています。ついこの間も「フィンランドを世界一に導いた100の社会改革」の著者イルッカ・タイパレ氏が来日され、講演会を行いました。「労働関係シンクタンクフォーラム」という連合系のシンクタンクや研究所との研究連携や交流も行っています。また、各県段階の自治労組織にも、「○○県地方自治研究センター」等が存在し、そことの連携も行っています。自治総研の取り組んでいる研究に、「自治体立公益法人とアウトソーシング」というテーマがありますが、これは各地の研究センターに協力を仰いでいます。このような研究機関等との協力体制・ネットワークが、私たちの大きな財産といえますね。さらに労働組合へのサポートも活動のひとつです。自治労関係だけでも、第二臨調時、自治労の臨調対策室設置を全面的にバックアップしました。地方自治の確立をめざすという点では、基本的に自治労と同じですから、共同でやった方が良い場合は協力体制をとります。

?分権改革、地方分権や合併、道州制などのテーマは、社会にとって非常に関心が高いものですが、これに関して、取り組みたい研究などについてお聞かせください。

懸念しているのは、分権推進に集中するあまり、自治がないがしろにされているのではないかということです。分権は「権力や権限を分かち合う」、対して自治は「身近なまとまりの中で自己決定ができる」、根本的に意味が違うのです。この点から、分権推進の名の下に行ってきた合併によって、自治が地方から遠ざかったように思います。合併によって自治体の機能を強めるというのは理解できないことではないのですが、その一方で地域が衰退していく状況にも目を向け、「自治」はどうあるべきかという研究を行わなければいけません。さらに合併による自治体の規模の拡大という状況の中で、NPOの役割も重要だと思います。構造改革論議において「官から民へ」と謳われていましたが、たいていこの「民」は民間大企業を指しています。我々はこの「民」は、市「民」や「民」間非営利組織が主だと考えています。自治体が大規模化し「身近なまとまり」がなくなる中、コミュニティをどう創っていくかという課題について、かなりの数のNPOは明確な問題意識を持って環境や医療・福祉分野などで活動しています。こうした団体と我々がどう連携できるかというのも、今後扱うべきテーマです。

?自治のあり方が問われる中、地方自治が確立されるためには、何がカギとなるのでしょうか。

まず「持続性」です。これは環境や社会保障制度などが財政的に継続できるかではなく、地域の人々にとって持続的に適切な施策を受けることができるか、という意味です。介護保険制度を例に挙げると、はじめは介護が社会化したと評価が高かったのに、制度の柱となるヘルパーやケア・マネジャー等にきちんとした賃金や処遇を行わなかったことから、働く人が集まらなくなりました。一番大切な「人」という要素がないがしろにされた結果、持続があやしくなったわけです。もうひとつの鍵となるのが「信頼」です。自治体の役割とは、そこに住む人たちの「基本的な人権を守る」ことです。これは労働組合と同じですね。地域は人と人との繋がりですから、自治や分権にしても、まずは人を尊重することから考えていかねばなりません。今の自治体は、地域全体をカバーするサービスを謳っていても、郵便局や役場が遠ざかるか、無くなってしまい、基本的なサービスを受けられない人が増えています。この原因は、財政面から持続性が試算されただけで、地域の人にとっての持続可能性があるかが検証されていないというところにあります。自治体はそこに住んでいる人たちから「信頼」がなければ「持続」していきません。企業における社員のための制度と同じですね。我々は、そういったことにも警鐘を鳴らしていかなければと思っています。

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